白鳥庫吉はスサノオを狗奴国の男王だと考えていますが、スサノオは面土国王ですから、天照大神とスサノオの対立は女王国と狗奴国の対立ではありません。『日本書紀』第十一の一書と『古事記』は殺された神の体から五穀と牛馬、あるいは蚕が化成するという同質の物語を伝えています。
『日本書紀』はツキヨミが保食神(うけもちのかみ)を殺したとし、『古事記』はスサノヲが大気都比売(おおけつひめ)を殺したとしていますが、両者は食物の神であることが共通しています。『日本書紀』では天照大神に保食神を見てくるようにと命ぜられたツキヨミが、命令に反して保食神を殺したため、天照大神とツキヨミが一日一夜隔て離れて住むようになったとされています。
よく知られているように狗奴国に比定できる阿蘇外輪山のなだらかで広大な台地は、日本有数の畑作地帯になっています。そして眼前の内海は魚介類の宝庫です。この神話は五穀の起源を語っていますが肥後の農作が意識されており、このことが狗奴国との対立に結び付けられているようです。
その時期は『古事記』ではスサノヲが高天原を追放されて出雲に下る前のことになっています。ツキヨミが保食神を殺す物語もスサノヲが大気都比売を殺す物語も、卑弥呼死後の争乱の事後処理が行われ、面土国王が滅ぶころのことになります。
二四七年に帯方郡使の張政が難升米に黄幢と詔書を届けに来ますが、黄幢の性格から見て詔書には難升米が魏の武官として狗奴国を討伐することを許可するということが書かれていたはずです。難升米はこの黄幢と詔書を根拠として、狗奴国の官の狗古智卑狗、あるいは狗奴国の男王の卑弥狗呼を討伐するのでしょう。
大気都比売、あるいは保食神は狗奴国の官の狗古智卑狗、あるいは狗奴国の男王の卑弥狗呼だと思われます。狗古智卑狗は菊地彦のことで、肥後の菊池川流域の支配者であることが考えられます。
菊地川流域などの肥後北半には青銅祭器や須玖式系土器が分布しており、北九州文化圏に属しています。ところが緑川流域から南は「火の国」の文化で、菊池川流域は北部九州の文化と南部九州の接点になっています。
ツキヨミは保食神から、またスサノヲは大気都比売から饗応を受けますが、食物を汚しているとして保食神、あるいは大気都比売は殺されています。狗古智卑狗は北部九州勢力と南部九州勢力の両方から影響を受けており、両面外交を余儀なくされていたように思われます。
この神話から狗古智卑狗が殺され狗奴国が滅ぶことが考えられます。女王国内では面土国王が滅び、さらに狗奴国も滅ぶようです。この時点で九州の半分が統合されたのです。とすれば次は全九州の統合ということになりますが、これがニニギの天孫降臨の神話になっています。
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