2010年8月4日水曜日

部族 その3

門戸の集合体が宗族ですが、宗族は父系で血縁関係をたどることのできる範囲内の人々の集団です。それは氏族に似ていますが、根本的な違いは宗族の血縁関係が明確であるのに対し、氏族は不明確だということです。

そのために宗族には明確な始祖がありますが、氏族には明確な始祖はなく、神話・伝説上の始祖がいます。前回に述べた罪を犯して消滅した宗族を吸収した場合や、あるいは集落が複数の宗族の構成員で形成されているなど、始祖や血縁関係が明確でない時に神話・伝説上の始祖を持つ氏族が生れます。

日本の古代氏族については、大和朝廷の支配機構と見る考え方と、血縁集団と見る考え方があり、支配機構と見る考え方は昭和初期に津田左右吉が初めて提唱し、その後の研究に大きな影響を与えました。津田左右吉の考え方によれば大和朝廷成立以前の日本には氏族は存在しないことになります。

中国の5大姓の一つ、劉氏の現代の人口は6千580万人という巨大なものですが、中国の氏族には「同姓不婚」の不文律があります。氏族にしても宗族にしても父系の血縁集団ですから同族間の通婚は許されず、他の宗族と通婚します。徒歩以外に交通手段の無かった時代ですから通婚圏は限定されます。

宗族間の通婚が重なるうちに通婚圏が形成されますが、部族の原形は宗族の通婚圏であり、それは縄文時代にも存在していたでしょう。この部族を形成する通婚圏が弥生時代中期に「国」になると考えています。それは律令制の郡の原形でもあるようです。

後期後半の女王国は30ヶ国で構成されていました。投稿の『再考、国名のみの21ヶ国』で述べましたが、筑前を三郡山地で東西に2分した時の西側の10郡ほどを邪馬台国と考え、奴国は東側の3郡と考えています。投馬国は筑後の10郡だと考えます。残りの27ヶ国は律令制の豊前・豊後・肥前の佐賀県部分の郡と一致するようです。

紀元前1世紀に倭人の百余国が遣使していますが、この百余国の個々が後に律令制の郡になると考えられます。この時点では筑前西半の10郡ほどが統合された邪馬台国や、筑後の10郡が統合された投馬国などの大国は存在していなかったでしょう。

こうした大きな国が出現するようになるのは百余国の遣使以後のことで、冊封体制では支配する国が大きいほど高位の爵号を授けられることを知ったことが原因になっているようです。支配する国が大きいということは支配する宗族も多いと言うことですが、弥生時代後半には部族は急速に巨大になっていくようです。倭人伝に次の文があります。

其の国の俗は、国の大人は皆四、五婦、下戸も或いは二、三婦。婦人は不淫、不妬忌

有力者は皆、4・5人の妻を持ち、さほど有力でない者でも2・3人の妻を持つ者がいるというのです。この多妻については大人階層に女性の労働力が必要だったからだという説や、戦争で男性が死んだために男性が少ないからだという説があります。

妻が多いことは通婚によって同族関係の生じた宗族が多いということで、それだけ権力が強くなるということです。多妻によって部族の規模が大きくなっていき、時代が下るにつれて文化的集団であったものが政治的な集団に変わるようです

部族が政治的な集団に変わったことにより宗族の形態も変化し、より政治性が強く始祖の不明確な氏族に替わっていくのではないかと思われます。多妻は支配者階層の義務であり、多妻を理由にした女性の浮気・嫉妬はタブーになっていたのでしょう。

部族は弥生時代後半には宗族長層の通婚によって結合する、言ってみれば支配者層の母系の親族集団になるようです。宗族の始祖と部族の間には父系の血縁関係はありませんが、宗族は父系の血縁集団ですから部族も父系の結合体である必要がありました。

中国の氏族には三皇・五帝のような神話・伝説上の始祖がありますが、部族も神話・伝説上の部族の父系始祖を持つようになります。こうして部族と宗族とが父系で結びついていると考えられるようになっていきます。

そして部族は通婚関係の生じた宗族に青銅祭器を配布するようになります。青銅祭器は創作された部族の始祖の依り代(神体)であると同時に、配布を受ける側の宗族にとっては宗族の始祖の依り代でもありました。宗族は青銅祭器を神体とする宗廟祭祀を行ないました。

倭人も神話上の始祖を持つようになります。最初からそう呼ばれていたのではないでしょうが、銅矛を配布した部族の始祖はイザナギになります。銅戈を配布した部族の始祖はスサノヲであり、銅鐸を配布した部族の始祖はオオクニヌシです。

銅剣を配布した部族の始祖は女神のイザナミですが、始祖は男性でなければならないので、ヤマタノオロチの神話でスサノヲとされるようになります。銅戈を配布した部族の始祖のスサノヲが高天が原で活動するのに対し、銅剣を配布した部族の始祖のスサノヲは出雲で活動することになっています。

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